E-TOMO Tasting Navi No.2

2022年07月20日

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リースリング Riesling

E-TOMO Tasting Navi 第2回は、ワイン初心者から愛好家まで幅広い層に愛される高貴な白ワイン、リースリングをご紹介! リースリングとは、どんなワインなのでしょうか?

起源

ドイツ・ライン川流域原産の白ブドウで、DNA鑑定の結果、片親はグーエ・ブラン(Gouais Blanc)、もう片方の親は、野生品種ヴィティス・シルヴェストリス(Vitis Sylvestris)とトラミナー(Traminer)の交配種とされています。
グーエ・ブランは、シャルドネやアリゴテ、ガメイといった数多くのブドウの先祖として知られ、ドイツ名はヴァイサー・ホイニッシュ (Weißer Heunisch) 。中世にフランスからドイツにかけて広く栽培されていた品種です。

近年の研究では、古代ローマ帝国時代に栽培されていた「Argitis Minor」という品種が先祖ともいわれ、ドイツ・ラインガウの畑にもたらされたのは、9世紀であるという説も。

ドイツのワイン造りは1世紀まで遡りますが、リースリングの名が言及されるのは15世紀に入ってから。1435年にRießlingenの綴りで記録が残されており、以降、Rießlingenは複数の文献に登場。現代と同じRieslingという綴りが最初に見られるのは1552年とのこと。

名前の由来は諸説あり、リースリングが開花時の雨風により花が受粉できずに落ちてしまう「花ぶるい」を起こしやすいことから、ドイツ語の「花ぶるい(Verrieseln)」から名付けられたという説や、「鋭い酸味(reißender säure)」「穂木(edles reis)」「濃い色の木(rusling)」など、明確な由来は現在も不明。

特徴

■ブドウ
一粒一粒の実が小さく、房も小ぶりな晩熟品種。輝きのある黄緑色の果皮に、熟成が進むと黄金色へと変わり、完熟すると “黒い斑点” が現れるのが特徴。
土壌や立地、微小気候など、テロワールの影響を受けやすく、耐寒性が強いので、冷涼な気候でこそ本領を発揮。気難しく生育が難しいものの、ブドウ樹自体の生命力は強いため、ある程度収量を多くしても高品質な実をつけます。

■香り
リンゴを基調としたフルーツに、白い花の華やかで気品ある香りが特徴的なアロマティック品種。リンゴ、柑橘、洋ナシ、ネクタリン、アプリコットなどの果実に、スイカズラ、ジャスミン、ライムの皮、ハニカムの香り。熟成によりハチミツやスモーキーさが加わり、ブドウの果皮に含まれるTDNにより「石油香」「ぺトロール香」と呼ばれる特有の香りが現れることも。


■スタイル
単一品種で醸造されることが多く、その華やかなアロマを生かすため、新樽や小樽で熟成されることは極めて稀。強みは、辛口〜極甘口、低価格〜超高級ワインまで、実に様々なワインが造れること。すべてのタイプに共通してあるのが強い酸。その豊富な酸により、20〜30年、長い時は半世紀以上もの熟成に耐えうるポテンシャルを持ちます。

Dry:辛口でドライなスタイルは「鋼のような」とも表現されるシャープな酸が特徴。近年では完全な辛口も多く生産されていますが、ドイツのモーゼルのように、酸とのバランスを取るために、若干甘みを残す傾向にあります。

Sweet:鋭い酸と残糖分とのバランスで、軽やかで繊細な、他の品種にはないスタイルの甘口を生み出します。貴腐ワイン、アイスワイン、ヴァンダンジュ・タルディヴ(遅摘み)など、デザートワインとして楽しめるラインナップが豊富。ドイツの「トロッケンベーレンアウスレーゼ」は世界三大貴腐ワインの1つ。

■ワインボトル
リースリングワインに多く見られるのが、細長くすっきりとしたフォルムの「フルートボトル」。アロマティック品種に使われることが多く、フランスのアルザス、ドイツ、オーストリアなどで特によく見かけます。
これはその地域で栽培される品種の飲み頃温度が影響しており、よく冷やして飲まれることの多いワインは、細長い形状のボトルのがより素早く冷やすことができるから。

代表的な産地

ドイツ

世界最大のリースリング栽培面積を誇るドイツ。甘口のイメージが強いドイツリースリングですが、近年では伝統的な甘口スタイルは減少、辛口の素晴らしい品質のワインも多く生産されています。2021年にワイン法が改正、従来の果汁糖度による格付けに加え、地理的原産地に基づく格付けも導入。

■ラインガウ Rheingau
ライン川北岸にあるドイツ屈指のリースリング銘醸地。Rheingauの “gau” は、フランク王国時代に制定された小国を意味し、ドイツのワイン産地でこの名が残っているのは、ラインガウのみ。
栽培面積の80%をリースリングが占め、豊富な日照のおかげで、川からの反射光と蓄熱によって温かい空気がブドウ畑に流れ込み、しっかりと熟したブドウに。桃の風味が強く、ふくよかで重厚感のあるブドウからは、力強い味わいの中にエレガントさを感じる、最高級ワインが造られます。この地のシュロス・ヨハニスベルクは、1720年からリースリングに特化した栽培を始めた世界最古の畑で、ドイツに5つしかない超特級畑 オルツタイルラーゲの1つ。

■モーゼル Mosel
モーゼル川とその支流のザール川、ルーヴァー川の流域に広がるドイツ最古のワイン産地。約40%の畑が傾斜30度以上という、世界的にも急斜面のブドウ畑が最も多く分布している地域で、傾斜地ならではの「棒仕立て」でブドウを栽培。中でも傾斜65度にもなるブレマー・カルモントは、ヨーロッパで最も急勾配の畑として知られています。

リースリングが栽培面積の半分以上を占め、ベルンカステル、ピースポートなど優秀な土壌を持った村が数多く存在。川の上流・中流・下流でそれぞれ異なる味わいのワインが生み出され、ラインガウと並び、世界最高峰のリースリング栽培地として高い名声を誇ります。ラインガウの桃の香りに対し、リンゴや洋梨、花を思わせるフルーティで華やかな香りが印象的。繊細で透明感のある気品に満ちたワインに仕上がります。


フランス

■アルザス地方 Alsace
ライン川流域にあるアルザス地方は、隣接するドイツの影響を色濃く受け、ワイン造りにおいてもドイツに近い文化が残っている地域。冷涼ながら雨が少なく、日照量の多い安定した気候がリースリングの栽培に適し、アルザスを代表するブドウであるとともに、この地で定められている高貴ブドウ品種の1つ。ヴォージュ山脈の山裾にあたる丘陵地の南向き斜面に植えられたリースリングから、高品質なワインが生まれます。

しっかりとしたミネラル感と、白い花を思わせるエレガントな香り、ドイツの軽い甘口スタイルより残糖が少なく、鋼のような厳格な酸を持ち合わせているのが特徴。アルザスでは補糖が認められているため、アルコール度数が高めになることが多く、ドイツと比べてフルボディなワインに仕上がります。


オーストラリア

リースリングの栽培面積は世界全体の2%程度ながら、南オーストラリア州のクレア・ヴァレーとイーデン・ヴァレーは、銘醸地として世界の市場で存在感を放っています。

■クレア・ヴァレー Clare Valley
オーストラリアを代表するリースリングの銘醸地。温和な気候ながら、夏場の日較差は30℃にも及び、ブドウは高い酸を保ったままゆっくり熟し、複雑な味わいに。土壌の違いでスタイルが変わるのもクレア・ヴァレーのリースリングの魅力で、スレート土壌のPolish Hillや、石灰質土壌のWatervaleなどが銘醸地として知られています。

ライムやオレンジブロッサム、リンゴの香りにミネラル、クリスピーな酸が伴い、香り高く上品で、硬質で引き締まった味わいは、世界中の飲み手を魅了。イーデン・ヴァレーのリースリングよりも酸が高いものが多く、最上のものは20年以上熟成するポテンシャルを持ちます。

■イーデン・ヴァレー Eden Valley
クレア・ヴァレーと並び、オーストラリアで最もレベルの高いリースリングを生む産地。同じバロッサ地区のバロッサ・ヴァレーでは世界最高峰のシラーズが造られていながら、こちらは高度と風の影響で、冷涼な気候。辛口で高い酸を持ち、ステンレスタンクで残糖を低く抑えたワイン造りが主流。

若いうちは搾りたてのライムやリンゴ、フローラルな要素、爽快な酸と硬質なミネラルを感じ、熟成するとハチミツやナッツ、トースト香が現れます。最上のものは10年以上に渡って熟成、多層的で複雑なフレーバーは、ドイツのトップクラスのリースリングに匹敵。


その他

オーストリアのヴァッハウ、アメリカのワシントン州やニューヨーク州、イタリア、東欧諸国、カナダ、ニュージーランドなど、世界各国で栽培。産地によって異なる顔を見せるため、ワイン用ブドウとしてのポテンシャルの高さを表しているものの、冷涼地域を好み、病害に弱く生育が難しいため、比較的生産量の少ない品種です。

フードペアリング

■辛口でドライなワインには・・・
サーモン、フレッシュな海老やカニなどの甲殻類、豚肉、クリームソースと好相性。
アルザスの郷土料理キッシュ・ロレーヌやシュークルート、ソーセージやベーコン、シュリンプカクテルなど

■ほの甘いオフドライのワインには・・・
酸と甘さのバランスが絶妙な中辛口ワインは、スパイシーな料理との相性が抜群。
インド、タイ、ベトナムなどのエスニック料理の他、高級ワインには、鴨や豚肉のフルーツソースなど

■とろみのある甘口のワインには・・・
甘口でも高い酸を保ち、柑橘やハチミツ、白い花の香りが感じられるワインは、甘酸っぱいデザートとぜひ。
レモンメレンゲパイ、アップルパイ、ベリー系のスイーツなど

★ポイント★
辛口から甘口まで味わいの幅が広いリースリングは、料理にも幅広く合わせられる万能品種。どのタイプにも共通して鋭い酸とリンゴのフレーバーが感じられるため、ライムやリンゴ、ハチミツを同調のブリッジ食材に使うと◎。

ライム感があるオーストラリアワインは、フレッシュなサラダや魚介と、熟度が高くオイリーなアルザスワインは、質感がクリーミーなパテや肉料理と、優しい甘さのあるドイツワインは、甘さがスパイスの辛さを中和してくれるため、一般的にワインを合わせにくいとされるエスニック料理ともよく合います。

ワインテイスティング



テュルクハイム アルザス リースリング キュヴェ レセルヴ
Turkheim Alsace Riesling Cuvee Reserve 2019

1955年に設立されたアルザス最良のブドウ栽培組合テュルクハイム。細心の手入れと厳しいブドウの選別によって、常に高品質のアルザスワイン造りを行っています。著名なレストランや、フランスの高級食材店「FAUCHON」にもワインを卸しており、ロバート・パーカーJr.の「ワインバイヤーズガイド」では、3ッ星生産者として高く評価。

こちらはテュルクハイムが造るお手頃価格のアルザス・リースリング。爽やかで辛口のキレのある味わいに、フレッシュなレモンやグレープフルーツの風味。生き生きとしてドライ、上品で長い余韻。飲み飽きない魅力があり、バランスの取れたアルザスらしいリースリングに仕上がっています。

産 地:フランス アルザス地方
品 種:リースリング100%
醸 造:ステンレスタンク発酵
Alc.度:13%
参考小売価格:2,100円
Importer:稲葉

みゆう:
アルザス地方で造られるのは主に辛口のリースリングで、柑橘類や青リンゴ、アカシアのような白い花の香りと、シャープな酸味、心地良いエレガントな余韻が特徴。ペトロール香と呼ばれるキューピーちゃんの香りもします! 試験では、柑橘類や白い花の香りとミネラル感、シャープな酸をしっかり感じ取れるかがポイントです☆



ヨアヒム・フリック エフ・ヴィニ・エト・ヴィタ リースリング トロッケン
Joachim Flick F.vini et vita Riesling trocken 2020

1973年設立のワイナリー。現在エステイトのあるフランクフルト近郊ストラッセンミューレは、700年以上に渡って第一線級のワインを生産してきた歴史と革新が共存している素晴らしい地。

こちらはラインガウのお手本と評される、非常にフレッシュかつフルーティーな辛口リースリング。リンゴやグレープフルーツの果実味がしっかりと感じられ、まっすぐに伸びるきれいな酸と、鉱物的なニュアンスを持った透明感溢れるワイン。「トロッケン」とは、残糖度9g/l以下の極辛口の意。食事との相性がとても良く、食卓には欠かせない1本です。

産 地:ドイツ ラインガウ地方
品 種:リースリング100%
醸 造:ステンレスタンク発酵&熟成(6カ月)
Alc.度:12.5%
参考小売価格:2,100円
Importer:モトックス

ユメコ:
昔は甘口で有名だったドイツリースリング。近年では食の変化とともに辛口も多く造られるようになりました。こちらもしっかりとした辛口ながら、後味に柔らかな甘みを感じるのが、やはりドイツ! スクリューキャップで開けたては微発泡。リースリング特有のペトロール香は弱く、柑橘や青リンゴの爽やかで優しい味わいが大人気のワインです♪



アルクーミ フランクランド・リヴァー リースリング
Alkoomi Frankland River Riesling 2021

南オーストラリア州の他、西オーストラリア州でもリースリングを栽培しており、こちらはグレートサザンで最も冷涼で孤立したブドウ栽培地域であるフランクランド・リヴァー。冷涼気候が繊細でアロマティックなワインを生み出し、リースリングの産地として知られています。

アルクーミは、1971年創業の家族経営ワイナリー。フランクランド・リヴァー地区にある自社畑のブドウを早朝に収穫、ブドウ本来の力を引き出すためフリーランジュースのみを使用し、ステンレスタンクで低温発酵。グリーンがかった淡いイエローの色調に、ライムの皮やオレンジの花、白コショウを思わせる香り。ライムやリンゴの豊かなフレーバーとはっきりとした酸が、フレッシュな味わいと余韻を与えています。

産 地:オーストラリア 西オーストラリア州 グレートサザン
品 種:リースリング100%
醸 造:ステンレスタンク発酵
Alc.度:12.5%
参考小売価格:1,628円
Importer:ファームストン

ミク:
オーストラリアの冷涼かつ夏の日差しが強い厳しい環境でじっくり育てられた、すっきりとしたワイン。外観はクリアで輝きのある淡いグリーンイエローで若々しい印象。レモンのような爽やかさと、洋梨や白桃のような果実感あふれる香りを感じ、アタックは控えめで、甘みと苦みは穏やか。小ぶりか中くらいのグラスで飲むとより楽しめます♪

今回のポイント

色調の違い

■左:アルザス、フランス
■中:ドイツ
■右:オーストラリア

・キラキラ輝きのある外観は、若くて酸度が高いことを表す
・糖度とアルコールが高くなるほど、粘性は強くなり、色調も濃くなる
・温暖でブドウの熟度が増すと、イエローの色味が強くなる
・オーストラリアは、冷涼で色が淡く、グリーンがかっていることが多い

香り&味わいの違い

スイカズラ

どのワインにも共通するのが、リンゴや柑橘の香りと、強い酸。ブラインドで「酸っぱい!」と感じたら、リースリングを候補に入れるべし。
フルーティーでフローラルな香りを生かすため、ステンレスタンク発酵が主流、樽を使用しているものは少ない。特徴香として「ぺトロール香」が感じられることもあります。

■アルザス:鋼のような酸とミネラル、熟度が高くオイリーな質感
■ドイツ:リンゴと白い花の香り、低アルコールで甘さがあればドイツ!
■オーストラリア:クリスピーな酸に “ライム” とミネラルの味わい


★ぺトロール香について★

ブドウの果皮に存在し、温暖な気候や強い日照により増加するTDN(トリメチルジヒドロナフタレン)という物質に由来する香り。ドイツやアルザスのリースリングでは、熟成に伴って穏やかにペトロール香を感じるようになり、オーストラリアのイーデン・ヴァレーやクレア・ヴァレーでは、ブドウの生育環境の影響によって、早いうちからこの特徴香を感じることがあります。

では、ぺトロール香とはどんな香りなのでしょうか? 石油香やガソリン香、もしくは “セルロイド人形の香り” とも表現されますが、一番分かりやすいのが “キューピー人形”。某ワインスクールのテイスティングクラスでは、リースリングの特徴香としてキューピー人形がグラスに入って回ってきます(笑)リースリングをテイスティングする際は、ぜひキューピーちゃんの香りを探してみましょう♪

※近年では、強いぺトロール香をオフフレーバー(欠陥臭)と捉える生産者も増えており、必ずしも感じられる香りではなくなってきています。リースリング=ぺトロール香ではないので、注意が必要です。